さて、このど素人の絵画鑑賞を締めくくるにあたり、一つとてつもない本をご紹介する。
先ごろ亡くなった大橋巨泉さんの美術評論の本である(全五巻)
65歳から西洋美術にはまり、人生の最晩年の軌跡として我々に残してくれたのがこの本である。
本当に、素晴らしい。
癌に侵され、白内障による視覚障害と闘いながら、2007年から4年に渡り書き上げた言わば遺言となるような著書である。
ルネッサンスからモダンアートまでの膨大な絵画を、ご自身で全て体験され、それを本にした。時間と財力とあくなき好奇心、そしてそれを明確に伝える表現力がなければ存在しえない奇跡のような本である。この5冊さえ読めばルネッサンス以降の絵画のすべてが分かるといえば言い過ぎか?
僕が非常に刺さったのは2点。
1. 実際に絵画を見て口に出している。とにかく感じたままを書き、自分が感じなかったことは書かないということを徹底している。(「羽の生えた人を見たことがないから天使は描かない」と言ったクールベのような写実主義である。)
2. 各絵画における表現において、その画家の生い立ちが非常に関係しているとして、その生涯を非常に分かりやすく説明している点である。確かに、その人の生い立ちを振り返って見るとその人がどういう表現に行きついたか。そしてその作品は結果的どうなったかが手に取るように分かる。
(目に見える表面的なものではなく、内面までも映し出したゴヤのようなロマン主義でもある。――といったこともこの本を読むと容易に言えるようになる(笑))
さて、5巻の全てを紹介するわけにはいかないが、とにかく最後の巻の初めにセザンヌ編だけ読んでも分かる。こんなにセザンヌを酷評した人は、当時のサロンの人以外にいないのではないか?
実は僕もセザンヌに対しては全く同意見である。とにかく巨匠という事で無理やり自分の納得させてきたが、この本と出会い、長年の溜飲が落ちた気がした。
僕的にはセザンヌは画家として決してうまくない。(あくまでど素人の意見です。)
さらに右脳では全く反応しない。のちの影響を考えて巨匠巨匠と言われて、無理やりすごいんだろうな!と自分に嘘をついてきた。しかし、実際は、美術館でも素通りしたい画家である。
実はこういったことは良くある。巨匠と言われて自分の感じた事と別のことを口に出す。自分自身に嘘をつく。あるいは自分の感覚より世間の評判を信じる。これは全くの間違いで、特に嗜好品は100人いたら100人の感じ方があって当たり前で、一番大事なことは、自分に素直になること。自分の感覚を信じることだと巨泉さんに教えられた!!
本当にありがとうございました!!
巨泉さん お安らかに。合掌
今回の学び 「世間の評価よりも、自分の目と耳と心で感じたものこそが、真実」
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