話題の「火花」を読んだ。
(注)いつも通り、僕の読書紹介では(これから読む人の為に)内容にはほとんど触れません。まだ読んでない人が、ブログと読んで、「そうなの!面白そう!」と本を手に取ってもらえば嬉しいですし、すでに読んだ人は、共感や「こういう見方もあんだ!」と時間つぶしにしてもらえばと思っています。それくらいまあ、適当です(笑)
さて、この作品。
読書直後の感想として、これはまさしく「芥川賞受賞作」であって、「直木賞受賞作」ではないと思った。読む前までは、失礼ながら少し軽く見ていて、会話中心の軽く読み流せるストーリーものという感じを持っていた。しかし、しかし、実際は全く違っていた!
僕の勝手な解釈としては、「芥川賞」と「直木賞」の一つの易い違いは、我々がその本を読む時の速さの差と考える。「直木賞系」は、ストーリーを楽しむことを主として、ゴーカートのようにどんどん読み進む。一方、「芥川賞系」は、文章や表現そのもの、あるいは語間に含まれた深い意味を読む感じで、読み進みながらも時には読み返して、その分析や比喩に感動したりする。これは、散歩に近い感覚で、時には立ち止まって「道草」を繰りかえす。
さらに言うと、「直木賞系」は映像化しても十分面白いが、「芥川賞系」は総じて、その魅力は、半減する。その特異な表現は映像には出来ないからだ。
同時に、この作品はまさしく「プロの作品」であった。
常々思っている事だが、プロとアマチュアの差はとても大きい。ゴルフでも歌でも、絵画やお笑いでもそう。もちろん、作家にしても素人とプロの差は歴然とある。
分かり易い文章や、何も考えないでつらつらと読める文章は、ある程度素人でも書ける。実際、全く無名のブログや著名人のエッセイを読んでもとても優れて、面白いものもいっぱいある。
ところがどっこい、長編、かつ純文学となれば、素人ではメッキがはがれる。もちろん僕は、プロの評論家ではないので、その差まで指摘できないが、違和感は、感じる。
先日、オークションハウスのオーナーに聞いた。
本物と偽物は、何かが違うらしい。「違いを説明しろ」と言われても、うまく出来ないほどの出来のいい偽物(笑)であっても、確信的な違和感を感じるらしい。
実際に、彼とスタッフが、ある著名コレクターのコレクションの鑑定を頼まれたとき、連作のある一点の画家のサインが左右反対向きに書かれていた!あり得ないミスであるが、これは本物の絵のネガをさかさまに見ながら描いたために起こったという。それが無ければタッチにしても構図等にしてもまさに本物的だったらしい。
ただ、彼が鑑定している間中、ずっと何か違和感を感じていたとのこと。結局そのシリーズ全体が偽物であった。
話を元に戻すと、この「火花」は、まぎれもなく本物だった。
小説でありながら、真正面からお笑い論、芸人論を展開していて、しかもその分析は、鋭い。小林秀雄というより中上健二的な、決して難解ではないが、誰も指摘しなかった切り口でこの分野を切り込んで、その本質をえぐりだしている。そこには、ボケや茶化しはない。相方もいない。ひたすら、自分一人で「お笑いとはなんや?」と問い続け、一番深い部分に近づこうとしている。真摯なガチンコな突込み連打である。山田詠美さん(芥川賞選考委員)の選評にあったように「どうしても、書かざるを得ない切実なものが迫ってくる」ということが正解であろう。
この「火花」では、会話の部分は少ない。会話に逃げていない。会話をつなげてストーリーを作っていく方が、漫才のネタ作りをしている又吉さんにとっては、簡単だったと思うが、この作品では、会話を必要不可欠なレベルまで削って、それがないと物語が成立しないギリギリに留めている。その一方で、「お笑い論」「芸人論」になると途端に饒舌となる。
心情や背景に対する表現も、相当練られている。村上春樹や阿部公房のように、今まで誰も使ったことがない、こんな面白い表現の使い方があったの?という個所が随所にあって、「読書の道草」をとても楽しめた。
とにかく、ストーリーも面白く、そして「ディテール」も楽しめる。「一粒で二度も三度も美味しい作品」として、ぜひお勧めです!
この話(「火花」ではなく、ブログの話)には、後日談があって、先日 なま又吉さん、綾部さんにお会いする機会があった。なま又吉さんは、人見知りでテレビの印象そのものだし、一方綾部さんは、非常に社交的で誰でも打ち解け、親しくなれるキャラだった。この最高のコンビが、ひとたび漫才をしだすと笑いの火花を散らす。
今回、この2人に当社の新商品「普段着としても着られるスーツ」と、お陰様で大ヒットしている「ストレス対策スーツ」の広告についてのご協力を戴いた。
これらの商品は「火花」に例えると、全てのディテールに徹底的に凝り、時間をかけて開発した。また、一着スーツで、仕事でも遊びでも着られる一粒で2度、3度美味しい。そのネーミングを本家本元の又吉さんと綾部さんにお願いし、「MYスーツ」(毎日着られる、わがままスーツのMとYをとった)と名付けてくれた。
又吉さんにあやかって、「火花」のように大ヒットして、業界を覆すようなインパクトを起こせれば、最高である。「火花」から転じて、大きな「花火」になればと思っている!
コメントする